ブラジルDUBBING COMPANIES レポート2012

●ブラジルのダビング産業リサーチの概要


2012年夏、ブラジルのサンパウロ市、リオネジャネイロ市において、ポルトガル語のダビング・スタジオの
実地調査を行いました。 その結果を以下の通り、報告したいと思います。


<事前リサーチについて>


出発2ヶ月くらい前からリサーチを開始。インターネットや現地のメディア関係者などを通じ、対象となる企業をピックアップ。数多ある当該企業の中から30社を選び、あらかじめメールを送り、日本からのプロジェクトに対応可能かどうか、稼働能力、概算見積等のヒアリングに努めました。当初の段階では、料金に関しては
明確な回答を避ける企業が多く、案件の具体例を示して欲しいとの要望が強くあり、慎重な姿勢がうかがえました。

事前リサーチの段階で、ある程度の企業の情報は収集できていましたが、ブラジルでは"顔の見えないビジネス"はあまり成功しない、といった助言もあり、実際のスタジオの雰囲気や担当者やスタッフの雰囲気を把握し、ブラジルとのビジネスの仕方を肌で感じることが必要と思い、現地調査を実施することにしました。


<現地調査について>


メールを送った30社の中から、メールの対応の仕方、HPの在り方、クライアントからの評判などを根拠に
9社に絞り、訪問、見学、打合せのアポイントをとりつけました。

サンパウロ5社、リオネジャネイロ4社を訪問し、スタジオ等の設備を見学し、幹部と直に会って様々な話をすることにより、ブラジルのダビング事情を肌で感じると共に、"顔の見えるビジネス"の素地が出来たと実感しています。

実際の訪問には、コーディネーター兼通訳として日頃から弊社でスペイン語版制作のスタジオ立会をしてくれているニコラス・バジェステロス君を同行。9社のうち、幹部との会話が全く問題なく英語でスムーズに行えたのは1社のみで、残りは英語が出来るスタッフが通訳するか、ニコラス君のスペイン語ポルトガル語通訳が
必要だったことは、実は想定外でした。事前調査の段階で、英語でのやり取りが可能な企業、国際的な
ネットワークを持っている企業をピックアップしていたのですが、"英語の出来るスタッフが若干名いる"
という状態だったのでしょう。中には外部の英語通訳者を手配してくれていた企業もありました。



<ダビング産業の背景>


ブラジルのダビング産業の歴史は古く、1950年代にディズニー・チャンネルがリオデジャネイロでダビングを開始したのが、最初だと言われています。その後、ハリウッド映画配給会社が相次いで、それらの会社との
取引を開始し、現在のダビング産業の基礎がリオデジャネイロに出来たと思われます。当初より、
リオデジャネイロのダビング産業は政府の強力な規制のもと発展してきていること、そしてブラジルでは
俳優組合が強い力を持つことなどから、特にリオデジャネイロの俳優組合の縛りは強いと言われています。

1980年代の技術革新まで、ブラジルのダビング産業はリオデジャネイロを中心に発展してきました。しかしながら、デジタル化やコンピューターの進歩によりグローバル化が進み、ダビング産業も大きな影響を受けました。それまで独占的に市場を支配してきた旧態依然の大企業が姿を消し、それに代わって小規模ながらも、先進的なデジタル技術を導入した企業が次々と現れてきました。

このような背景から、技術革新の波に乗った新しい企業が、強力な俳優組合に仕切られているリオデジャネイロを避けて、サンパウロに起業し始めたのが、1980年代後半だと言われています。サンパウロの俳優組合は、
リオデジャネイロほどには強力な力を持たないため、規制は緩やかに保たれています。


<俳優組合>


声優への支払や、労働条件、著作権などに関する交渉ごと、また声優に関係する利益の保護や法的な訴訟に
関しても組合が窓口になります。

リオデジャネイロ、サンパウロ、両都市において共通するのは、プロの声優はまずは俳優組合に属していると
いうことですが、前述のように、サンパウロの方がその縛りは緩やかです。また、組合には約450人の声優が
所属していると言われていますが、どこのスタジオでも同じようなフリーランスの声優を使っているという状況ではあります。

俳優組合の主な仕事はダビング・スタジオとの報酬の交渉です。組合の力が強いため、毎年のように報酬の値上げが交渉されています。


<ループ>


ブラジルにおける声優への支払方法は「ループ」という概念に基づきます。「ループ」とは声優への支払を決めるひとつの目安です。1ループは20秒間のダビングを意味し、20ループで1時間分のレートが適用されます。つまり所要時間ではなく、台詞またはナレーションの尺で支払を計算するということになります。


<著作権>


今回のミーティングで強く感じたのが、声優の著作権の扱いには多少の配慮が必要だということです。俳優組合が声優の著作権保護を強く主張しているため、多メディア展開(DVD等)が予想される際には入念な事前の
打合せ、調整が必要だと思われます。

声優の著作権に関しては、国が法律で「声の使用に関しては声優が合法的な権利を有する」と認めています。
問題は、実際にこの権利を声優はどう行使するかについての記述がないことです。法律は、「ダビング・スタジオが声優の個人的な権利に関して交渉することはできない」ということだけは定めています。つまり、メディア作品(映画、アニメ、ビデオ)の所有者が直接声優と交渉しなければならない、ということになります。

このように著作権行使に関する明確な記述がないことから、メディア作品の所有者にとっては時に様々な問題が起きることがあります。(現在もある米国のメディア会社が声優の著作権侵害で訴訟をおこされています)
この辺の事情は当初から考慮するのが望ましいと思われます。


<スタジオの施設について>


どのダビング・スタジオも、防音のしっかりとした収録ブースとコンパクトなコントロールルームというのが
定番で、机の上にはプロツールスと、4系統から8系統くらいのコントローラーがあるくらいのとてもシンプルな構成でした。
音をゼロから作る必要のないダビング・スタジオというのは、これでいいのだと、強く実感した調査でもありました。

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